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この三加和町の神楽の経験から、その地方が個性を持てば持つほど国際性を持ちうるんだという事実を私は自分の肌で感じた。世界中の人々の心が荒れて、みんなふるさとを欲しがっている中で、自分のものをしっかり持つことにより、そういう心に憧れて、人はやってくるといえる。
○そうした観点から、日本が一つ大きな遅れをとっているのは、観光である。1990年、4億2000万人の人が全世界で観光に出ており、2000年にはこれが9億人になると予想されている。観光が一番集中するのがアジアの国々であるが、観光をもって国の産業を起こそうと取り組んでいるのは地域の住民である。タヒチ、バリ島、典型的なのはハワイで、住んでいる人たちが自分たちの芸能を披露している。日本においても、そうした文化を起こすということが世界につながるという要素を内側に有している。
○村おこし町おこしをしようとする場合、行政はすぐに道路や橋など、後で形に残るものを考える。確かにそれは、便利なものであるが、その町、その村だけのものとはならない。その町、その村を起こすために必要なのは、過疎だから何をやってもだめなのだというあきらめが充満している町や村の人々の心を奮い起こすことだと考える。
しかし、残念なことに日本には心にかけるお金は、国にも自治体にも文化会館にもない。
地方分権で文化を起こそうとする時には、文化のためならば年度を超えてお金が使えるという制度に変える、あるいは使途を柔軟にできるといった積極的な工夫を行うことが絶対に必要である。
○最後に、地方分権の一番の基本の心は、一つは今自分はこれでいいのかという反省に基づいた向上心、もう一つは、今自分は自分以外の人に何をすることができるのかという、人のために生きてこそ人という奉仕をする心である。地方自治はこれでいいのか、住民はこれでいいのか、現状をまず実際に即して反省して、そしてそこから良き次の時間を作ることである。
人のために生きてこそ自治体という考え方を、公務員全体が持たないと、地方自治はほとんど不可能だと思う。
○戦後、親子関係において、孝というものが失われ、今や老人問題が日本の社会問題のトップに座ってしまった。そして未だ解決の方法が見いだせない状況にあるが、その基本的な原因は、家族を作ることができなかったことにある。権力とか権威とかの根底にあるのは心であり、まずそれを作ることから地方分権を始めていただきたいと考える。政治は常に善を構築するものでなくてはならない。そして、その具体的なあらわれとして、みなさんの市町村に、文化が見事に、個性的に、花を開くであろうことを確信している。

 

 

 

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